タイムカードを押して「退勤」したあとから、本当の仕事が始まる。当時の私にとっては、それが当たり前の毎日でした。
朝8時前に出勤して、店を出るのは翌朝3時。休みの日でも、夜には店にいる。そんな生活を、19歳のころに一年以上続けていました。今振り返ると、よく体がもったなと思います。
📌 体験者プロフィール
・年代・性別:10代後半男性(体験当時19歳)
・業界・職種:パチンコ店ホールスタッフ(のちに店舗運営も担当)
・雇用形態:アルバイト入社→半年で正社員登用
・企業規模:地元に新規オープンした中小〜個人経営規模の店舗
・当時の立場:現金管理を任される数少ない社員のひとり
・退職状況:退職済み(のちに別業界へ転職)
・体験形態:実体験ベース
・体験時期:4号機が主流だった2000年代前半ごろ
※プライバシー保護のため、個人が特定されない範囲で仮名化・一部詳細を変更しています。
開店前の準備期間だけは、定時で帰れた
高校を卒業してすぐ、地元に新しくできるパチンコ店の面接を受けて、合格しました。これが私にとって初めての仕事です。社会に出るというのはこういうことか、と何も知らないまま飛び込んだ形でした。
最初の仕事は、午前8時に出勤して、パチンコ台やスロット台を運び込む搬入作業から。この準備期間だけは、特にブラックでもなんでもなくて、17時にはきちんと定時で上がれていました。
ただ、今になって思えば、開店日が近づくにつれて、だんだん「断れない仕事」が増えていったように感じます。最初の数週間がまともだっただけに、その変化には自分でもなかなか気づけませんでした。
タイムカードを切ってから、2000ゲーム
当時のスロットは4号機という、いわゆる爆裂機が多い時代でした。その中でも人気だったのがストック機で、開店当日にお客さんに出玉を出すためには、ある程度ストックがたまった状態でオープンしなくてはいけません。
そのために始まったのが、開店5日くらい前からのサービス残業でした。やり方はシンプルです。いったんタイムカードを切って「退勤」したことにしてから、ストックをためるために、一人一台2000ゲームずつ打ってから帰る。
記録の上では、もう帰ったことになっている時間に、全員が黙々と台を回している。今思えば異常な光景ですが、初めての仕事だった私は「開店ってそういうものなんだ」と思って、むしろ率先してこの作業に励んでいました。
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半年で正社員、現金を触れるのは三人だけ
そうやって働いているうちに、半年後には正社員になっていました。
ただ、これがよかったのかどうか。私が正社員になったとき、店にいた社員は店長ひとり、リーダーひとり、一般社員が二人。その中でも現金を扱えるのは、店長とリーダーと私の三人しかいませんでした。
現金を任されるというのは、一見すると信頼の証のように聞こえます。でも実際には、「代わりがいない」ということでもありました。この三人のうち誰かが抜けたら、店が回らない。そこから、私の生活が一気に変わっていきます。
朝8時から、翌朝3時まで
正社員になってからの一日の流れは、こうでした。
朝は8時前に出勤して、パート・アルバイトの朝礼と、コース担当の割り振りをします。それから開店作業をして、現金を補充して、ホールを巡回する。遅番のもう一人の社員が出てくると、そこでいったん帰宅できます。
家に帰って、食事をして、風呂に入って。ひと息つく間もなく、20時にまた出勤です。今度は現金の回収と補充をして、閉店後には売上の計算、次の日の台の準備、お客様へのDMの作成。これがだいたい終わるのが、午前1時くらい。
それからスロットの設定変更をして、ようやく私の業務は終わり――のはずでした。でも、なぜか店長が釘の調整をしているのを、その後ろでずっと見て待っていなければいけませんでした。自分の仕事はとっくに終わっているのに、です。
店長の釘調整がすべて終わるのが、午前3時くらい。そこから日課のように、二人でラーメンを食べに行く。家に帰って少し眠って、また朝8時前には店にいる。睡眠時間は、平均で4時間くらいだったと思います。休みの日以外は、毎日これの繰り返しでした。
休みの日も、夜8時には店にいた
では休みの日は何をしていたかというと、午後8時に出勤していました。出勤、と言っていいのかもよくわかりません。
タイムカードも押さずに店に入り、現金の補充と売上の計算、設定変更をして、店長の釘調整が終わるのを待ってご飯を食べに行く。やっていることは、ふだんの夜とほとんど同じです。
つまり「休み」というのは、朝に出勤しなくていいというだけのことでした。実際には毎日店に出て、仕事をしていた。そして残業がつかないように、自分でタイムカードを調整して押していました。記録の上では、私は毎日きっちり定時で帰っている、まじめな社員だったわけです。
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175センチ、55キロ
そんな生活を続けていたせいか、体はみるみる細くなっていきました。
身長175センチに対して、体重は55キロまで落ちました。顔色も悪くなっていったようで、ホールを歩いていると、お客様のほうから声をかけられるようになりました。
「大丈夫?倒れそうな顔して歩いているよ?」
お客さんに心配されるくらいの顔で、私は接客をしていたわけです。自分では必死に普通にしているつもりでも、はたから見れば、どこか様子がおかしかったのだと思います。
中から見ていたから、潰れた理由がわかる
そのパチンコ店は、今はもう潰れてしまいました。
なぜ潰れたのか。中で働いていた身からすると、理由はよくわかります。社員を大切にする会社というのは、社員のほうもやる気に満ちていて、会社のことを前向きに考えて仕事に取り組めるものだと思います。そういう会社が、結果的に伸びていく。
でも、あの店はそうではありませんでした。一人の社員を限界まで使いつぶすやり方で、その場の数字は作れても、長くは続かない。働く側の気持ちがどんどん離れていく職場で、いい店ができるはずがなかったのだと、今ならわかります。
偉い人の言葉は、綺麗ごとにしか聞こえなかった
当時の私の心境を正直に書くと、店長やリーダーといった上の人が何を言おうと、すべて綺麗ごとにしか聞こえませんでした。
「お客様にいい接客をしろ」と言われても、まったく心に響かない。それどころか、早くこの店が潰れてしまえばいい、とすら思っていました。あったのは、憎しみに近い感情だけです。
それでもあの働き方ができたのは、19歳という若さがあったからだと思います。今の自分に同じことをやれと言われても、まず無理です。あの頃は、おかしいと気づく余裕すらないまま、ただ走り続けていました。
辞めて初めて、休みがある幸せを知った
その後、私はこの会社を辞めて、別の会社に転職しました。
転職してまず感じたのは、勤務時間がとても短く感じる、ということでした。そして、休みがあるというのは、こんなに幸せなことだったのか、と。当たり前のことが当たり前にある環境が、どれだけありがたいか、辞めて初めて身にしみました。
悪いことばかりでもなくて、あの経験のおかげで、多少の理不尽やつらいことなら何とも思わない精神力はついたと思います。ただ、それを差し引いても、二度とあの働き方には戻りたくありません。
これから働く人に、伝えたいこと
最後に、同じように働いている人へ伝えたいことがあります。
ブラックな職場でよくあるのが、「定時を過ぎてもお前の仕事が終わっていないのは、お前が仕事をできないせいだ。勝手に自分でやりたくて残っているんだろう」という理屈です。あたかも会社は悪くない、という顔で、こちらの責任にしてくる。
責任感が強い人ほど、こういう職場ではいいように使われてしまいます。「自分の仕事は終わらせなければ」と思い込まされて、少しずつ心身を壊されていく。私自身がそうでした。もちろん記録上は毎日定時で帰っていることになっているので、残業代はゼロ。会社からすれば、都合のいい労働力でしかありません。
だからこそ、上司にどう思われようと、残業はきちんとつけてもらう。自分は給料の出る時間しか働かない。そういう強い意志を持ってほしいと思います。一人が会社の犠牲になるような働き方をしていると、それが「普通」になって、周りの人にも同じことが求められていきます。決して、自分だけの問題ではありません。
この業務はおかしいのではないか。そう感じたら、声に出して上司に申し立てる。簡単ではないけれど、それが自分を守る第一歩になるはずです。
編集部より
この体験談で何より目を引くのは、タイムカードを切ってから働く、あるいは押さずに働くという形で、労働時間そのものが「なかったこと」にされていた点です。労働基準法37条は時間外労働への割増賃金を義務づけており、記録を操作して残業代を払わない運用は明確な賃金不払い=違法です。ここに、現金を扱える社員を三人に絞った少人数体制が重なりました。代わりがいないから抜けられない、抜けられないから全業務が特定の一人に集中する。長時間労働と残業代ゼロは、本人の頑張り不足ではなく、人を絞った店側の運営設計から生まれた結果でした。
辞めるという選択は、逃げではありません。心身が削られていると感じるなら、続けるか辞めるかを決める前に、まずは今の状況を一度言葉にして棚卸ししてみてください。一人で抱え込まず、信頼できる人や下記の窓口に話してみることも、立派な一歩です。
困った時の選択肢
【記録の上では「定時で帰っている」ことにされている方へ】
タイムカードを切ってから働かされる、あるいは押すなと言われる――こうした職場は、本人が声を上げにくいように作られています。直接かけ合うのが難しいときは、退職の意思を本人に代わって会社へ伝えてくれる退職代行という方法もあります。弁護士法人ガイアは性別を問わず利用でき、まず離れて態勢を立て直したいときの選択肢になります。
→ 残業代も出ないまま削られる職場から、まず離れたい方へ(弁護士法人ガイア)
そのほか、状況に合わせて選べる窓口を挙げておきます。
・最初の職場がブラックで、まともな労働環境へ移りたい若手の方は(18〜29歳・全国・正社員経験のある方向け)→ 第二新卒・若手のキャリアチェンジ相談【UZUZ】
・辞める前に、他業界の働き方や口コミ・年収を調べて比べておきたい方は → ワンキャリア転職(口コミ・選考体験談で他業界を知る)
・睡眠も削られて心身が限界に近いと感じる方は、抱え込む前に、自分の気持ちを整理するセルフケアから → 心のAIパートナー【Awarefy】(自己理解・セルフケアアプリ)
公的な窓口としては、総合労働相談コーナー(厚生労働省)や、賃金の不払い・違法な残業について申告できる労働基準監督署が無料で相談に乗ってくれます。気持ちの面でつらいときは、よりそいホットライン(0120-279-338)も利用できます。
働き方を変えた人の本音を、まず無料で何冊か読んでみるのもいいかもしれません。
・読んでみる → Kindle Unlimited(30日間無料体験)
・聴いてみる → Audible(30日間無料体験)
平均4時間しか眠れない毎日でも、横になる間だけは目の周りをあたためたい――そんなときに手元に置いている人が多いものです。

