保育園で管理栄養士として6年働いて、辞めました。
保育園と聞くと、ほとんどの人は「保育士の職場」と思いますよね。でも実際の保育園には、栄養士、管理栄養士、調理師、事務員、看護師など、いろいろな職種の人が働いています。子どもたちの食事を作り、健康を管理し、運営を支えている人たちがいるのです。
そのなかで、私は管理栄養士でした。給食の献立を作り、アレルギー対応をし、子どもたちの成長に必要な栄養バランスを考える仕事です。やりがいはありました。子どもたちの「給食おいしかった!」の一言で報われる仕事でもありました。
それでも、6年で限界が来て辞めました。理由は、仕事内容ではなく、保育園特有の人間関係と給料格差の問題でした。
これから書くのは、保育園で管理栄養士として働いた6年間のリアルです。同じ立場で苦しんでいる人、これから保育園栄養士を目指す人に、何かのヒントになれば嬉しいです。
大手企業なのに、保育園職員の給料は驚くほど安い
私が働いていたのは、保育園・高齢者介護施設・障がい者施設をいくつも運営しているA社が、直接経営している企業主導型保育園でした。
A社は業界では大手と言われている会社です。だから入社前は「大手なら待遇もそれなりにいいだろう」と期待していました。
でも、ふたを開けてみたら違いました。保育園職員の給料は、一般企業で働く同年代に比べて驚くほど安かったのです。
大手企業勤めの友人と話すたびに、ボーナスの桁が違うことに愕然としました。新卒で入った友人の初任給より、6年目の私の月給のほうが低い、なんてこともザラでした。
そして、保育園内でもさらに給料の差がつけられていました。
職種で給料に差をつける「狡猾な経営術」
これが私の元職場で一番納得いかなかった点です。
保育士の給料も決して高くはないのですが、栄養士や事務員はもっと安く設定されていました。具体的にいくらとは言えませんが、月給ベースで明確に差があったのです。
なぜそんな設定にするのか。私はある時、ハッと気づきました。
これは、保育士から「給料を上げてくれ」という要望が出たときの言い逃れのためじゃないか、と。
「うちの保育士の給料が安い?いやいや、栄養士や事務員はもっと安いんですよ。彼らに比べたら保育士は恵まれているほうなんですから、我慢してください」
経営者がこう言えば、保育士は黙るしかなくなります。比較対象を作って、相対的に「マシ」と思わせる。これは経営側にとって、人件費を抑える狡猾な方法です。
そして、この給料設定が現場の人間関係を確実にいびつにします。
給料の差が「身分の差」に変わる瞬間
大企業の年収格差から見れば、保育士と栄養士の給料差なんてどんぐりの背比べです。月数千円〜数万円の違いに過ぎません。
でも、保育園という閉じた小さな社会の中では、その小さな差が大きな意味を持ち始めます。
保育士は次第にこう考え始めるのです。
「私たちのほうが給料が高い=私たちのほうが上の存在」 「栄養士や事務員は給料が安い=私たちより下の存在」
口に出して言うわけではありません。でも、態度や言葉の端々に、その意識が滲み出てきます。
「栄養士さん、ちょっとこれやっておいて」 「給食の時間、もう少し早くできない?こっちが大変なんだから」 「事務さんが分かるわけないでしょ、現場のことなんて」
こういう言葉を、6年間で何百回聞いたかわかりません。
私のほうが学歴も資格も上なのに
正直に言わせてください。私は4年制大学を卒業して、管理栄養士の国家試験に合格しています。
管理栄養士の国家試験は、合格率が60%前後の難関資格です。栄養学・生化学・解剖生理学・公衆衛生学など、膨大な専門知識を問われる試験で、4年間の専門教育を受けた人間しか受験できません。
一方、保育士のほとんどは短大や専門学校を卒業して、無条件で資格を取得できる仕組みです(保育士試験ルートもありますが、私の職場では大半が指定校卒の保育士でした)。
学歴も、勉強量も、資格の難易度も、客観的に見れば私のほうが上です。仕事内容で優劣をつけたいわけではありませんが、それでも「下に見られる」ことには、どうしても納得がいきませんでした。
理由はたったひとつ。給料が彼らより安いから。
それだけのことで、保育園という狭い世界では身分が決まってしまうのです。
保育園の人間関係の難しさは、保育士同士でも同じようです。同じ保育園で女社会の人間関係に苦しんだ元保育士の体験談も、こちらの記事で紹介しています。 保育士を辞めて専業主婦になった話|女社会の陰口とモンペに疲れ果てた私の本音
やりがいだけでは続けられなかった
仕事の内容自体は、本当にやりがいのあるものでした。
子どもたちの「おいしかった!」「これ大好き!」という言葉。アレルギーの子のお母さんから「いつもありがとうございます」と感謝される瞬間。離乳食からの卒業を見守れる喜び。
将来のある子どもたちの成長過程に直接関われる仕事に、私は誇りを持っていました。
それは保育士たちも同じだったと思います。多くの保育士は、本来は優しく思いやりのある人たちです。給料の差で人を見下すような人たちじゃない、と信じたい気持ちもありました。
でも、会社のやり方が、優しい人たちを変えてしまっていたのです。
このまま続けていると、私自身も誰かを下に見るような人間になってしまう気がしました。会社のシステムへの不信感は、6年目になる頃には限界に達していました。
そして、退職を決意しました。
同じ保育園業界で、ホワイトな職場を見つけた
退職してから転職活動を始めました。最初は管理栄養士として、高齢者介護施設や病院も視野に入れて広く探していました。
でも、求人を見たり面接を受けたりするうちに、やっぱり子どもの成長に関わる仕事に魅力を感じている自分に気づきました。
そこで、前職と同じような企業が運営する保育園をいくつか見てみることにしました。
そのなかで出会ったのが、現在働いているB社の保育園です。
B社の話を聞いたとき、衝撃を受けました。
「うちは保育士も栄養士も事務員も、職種で給料に大差をつけていません」
具体的には、栄養士と管理栄養士は「給食部門」という独立した系統で運営されていて、保育士とは別の部門扱い。管理栄養士の免許には資格手当が付き、主任保育士と同程度の給料水準。
前職より給料が高いことはもちろん魅力でしたが、何よりも「保育士より低い身分だと思わされる構造」がないことに惹かれました。
迷わず転職を決めました。
入社2年目、人間関係が嘘みたいに穏やか
転職して、現在は入社2年目です。
新しい職場は前職より規模は小さいけれど、小さい分、社長をはじめ経営陣との意思の疎通がスムーズです。毎月、職場環境に対する意見やアンケート調査を実施していて、現場の声がちゃんと吸い上げられています。
そして何よりも、園長や保育士たちとお互いに尊敬の気持ちを持って業務に携わることができているのです。
「栄養士さん、子どもがこのメニュー大好きみたいで!」 「アレルギー対応、本当にいつも助かってます」 「給食室の意見も聞かせてください」
こういう言葉が日常的に飛び交います。
どちらが上とか下とか考えることもなく、いろいろな職種の人間が、子どもたちの安全と成長を願って一緒に働く。
それが本来あるべき保育園の姿だと、今は心から思っています。
「ホワイト企業」とは何か、考え直した
新しい職場で働き始めて、私は「ホワイト企業」の定義を考え直しました。
給料が高い会社がホワイト企業? 休みが多い会社がホワイト企業? 有給が取りやすい会社がホワイト企業?
もちろん、それらも大事です。でも、それ以上に大事なものがあると気づきました。
働いている人間が、自分の仕事に誇りを持てる環境を作ってくれる会社。
それこそが、本当のホワイト企業だと私は思います。
保育園や介護施設を経営している企業の多くは、目先の利益追求ばかりしているように見えます。職員の人件費を抑え、給料に格差をつけて支配し、現場の不満を相互比較で逃がす。これは長期的には絶対に続かないやり方です。
私は、保育園に関わるすべての職種の人たちがプライドを持って働ける環境が、もっと当たり前になってほしいと願っています。それが日本の未来にも、確実に役立つはずです。
保育園内で資格を持たないパートとして雑用扱いされ、給料も正社員保育士の半分以下だった体験は、こちらの記事にもあります。IT業界から保育園パートに転職した女性が、保育士資格を取得して正社員になるまでのリアル体験談です。
IT企業のパワハラで退職、保育園パートでも雑用地獄|資格取得で天職に出会った話
これから保育園栄養士を目指す人へ
最後に、これから保育園で栄養士・管理栄養士として働きたい人に伝えたいことがあります。
就職先は、絶対に複数比較してください。
「保育園で働きたい」という気持ちが強いと、最初に内定が出た園で決めてしまいがちです。でも、保育園と一口に言っても、運営している会社によって職員の扱いはまったく違います。
特に確認すべきポイントは:
- 栄養士・管理栄養士の給料水準(保育士との差は?)
- 給食部門は独立しているか
- 資格手当はあるか
- 職員アンケートや意見吸い上げの仕組みがあるか
- 退職率はどうか
これらをちゃんと確認してから入社すれば、私が経験したような「給料格差で人間関係に苦しむ」状況は避けられるはずです。
保育園での仕事は、子どもたちの未来に直接関わる素晴らしいものです。だからこそ、自分が誇りを持って働ける職場を選んでください。
辞めて転職するのは大変ですが、確実に環境は変えられます。私が証明です。
