固定給25万円に、成果報酬70万円が上乗せされた月の給与明細。
額面はちょうど100万円でした。手取りで70万円ほどあります。
ふつうなら「やった、目標達成だ」と喜ぶ場面のはずです。それなのに、明細を見た私の心は静まり返っていました。
これは、ネットワークビジネスで借金を抱えた27歳の私が、固定給+成果報酬型のWeb広告代理店に飛び込み、最高月収100万円を達成しながらも、2年半で退職を決めた話です。
ネットワークビジネスで借金、成果報酬型に活路を見出した27歳
20代半ばで、私はネットワークビジネスにのめり込んでしまいました。
商材を仕入れて売る仕組みに惹かれ、気づけば手元には在庫と借金だけが残っていたのです。通常の給料だけでは、毎月の返済が回らない状態にまで膨らんでいきました。
そこで考えたのが、成果を出した分だけ収入が上がる働き方です。
固定給+成果報酬型の営業職なら、頑張った分だけ給料が上がります。借金の返済を加速させるためには、自分の頑張り次第で収入が変動する仕組みのほうが合っているはずだ。そう判断しました。
数ある業界の中でWeb広告を選んだ理由は、伸び盛りの業界で大きく稼げる可能性を感じたからです。
転職活動の末に内定を得たのは、社員数30〜40名の中規模Web広告代理店でした。国立大学・大学院卒という経歴を活かせる業界とも考えていましたが、何より「ここなら借金を返せる収入を作れる」という直感が決め手になったのです。
Web広告代理店という未経験業界への飛び込み
入社時の待遇を整理すると、こんな感じでした。
・固定給:月25万円
・成果報酬:月20〜70万円(成果次第で変動)
・年収レンジ:400〜700万円
・ボーナス:なし
・雇用形態:正社員
ボーナスがない代わりに、毎月の成果報酬がそのまま給料に反映される構造です。
仕事内容は、広告主と広告出稿メディアの間に立つ「代理業」でした。
広告主に対しては、新規顧客獲得を目的とした広告出稿を提案します。広告出稿メディア側には、収益性の高い案件の提案や出稿後のサポートを行います。
会社全体の売上の9割以上が、予算を預かる形ではなく、獲得件数に応じての成果報酬型で構成されていました。
この構造は、社員にとってチャンスでもあり、リスクでもあります。
数字を出せれば青天井で給料が上がる一方、出せなければ固定給の25万円だけ。借金返済のために飛び込んだ私にとって、後者は許されない選択肢でした。
入社2ヶ月で見えた「○○くんだから」と言われる関係構築
入社直後は、前職で培ったテレアポ経験がそのまま武器になりました。
入社2ヶ月の間、毎日のように新規顧客のアポイントを取得し続けたのです。
ただ、テレアポで一時的に件数を作っても、長期的に売上を立てるには別のアプローチが必要だと早い段階で気づきました。
そこから方針を切り替え、長期で関係を構築する方向にシフトしていきます。具体的には、案件単位の数字ではなく半年〜1年単位での関係性を築くこと、広告出稿メディアの担当者との信頼関係を最優先にすること、短期の利益より長期の協業姿勢を重視することです。
この姿勢を続けた結果、メディア側から「○○くんだから、案件をお願いしたい」と指名で依頼される機会が増えていきました。
代理業という仕事は、極論を言えば「いなくても成り立つ仕事」です。広告を出したい人と出してくれる人をつなぐ役目に過ぎません。だからこそ、いかにそれ以上の価値を出せるかが営業マンとしての勝負どころでした。
最高月収100万円の達成、それでも喜べなかった理由
入社から1年半ほど経った頃、私は最高月収を更新しました。
固定給25万円+成果報酬70万円。額面で約100万円。
借金を抱えていた27歳の私には、想像もできなかった金額でした。
それなのに、給与明細を見ても、純粋な喜びは湧いてきませんでした。
理由は2つあります。
ひとつ目は、この金額が安定しないことを、すでに痛いほど分かっていたからです。100万円稼げた翌月に、成果報酬20万円という月もありえます。固定給と合わせて45万円。落差にして倍以上です。
ふたつ目は、稼げる月の達成感より、稼げない月の焦りのほうが日常を支配していたからです。
成果報酬型のリアル:稼げる月と稼げない月の落差
広告業界というのは、月によってクライアントが使う予算の波がとても大きい業界です。
予算が潤沢な月もあれば、引き締めに入る月もあります。これは個人の頑張りでは制御しきれない要素でした。
その結果、毎月の給料が伸び悩む時期が必ず訪れます。
辛かったのは、自分の数字が止まっている間に、後輩や他のメンバーがどんどん成果を出して給料を上げていく姿を見ることでした。
成果報酬型の職場では、給料の高低は成果の如実な表れです。隠しようがありません。朝の朝礼で月の数字が共有されるたびに、頭の中で「自分はあの後輩に追い抜かれている」という事実が突きつけられました。
それでも、一度大きな成果を出すと楽しくなってくる仕事ではありました。「常に辞めたい」と思うほどではなく、稼げない月の焦りと稼げる月の達成感を行き来しながら、2年半を過ごしていったのです。
数字を追う営業職という構造は、業界が違っても根っこの部分で共通します。観光土産の卸売営業として年収220万円・朝4時半起床から深夜帰宅の生活で前年比160%を達成し、辞表提出の瞬間に上司の態度が一変した方の体験談はこちらの記事で紹介しています。
新卒営業マン年収220万・朝4時半起床→深夜帰宅でも前年比160%達成した3年間
Web広告代理店営業に向いている人・向いていない人
2年半働いてみて、この仕事に向いている人と向いていない人がはっきり見えてきました。
向いている人
・人間関係を大切にできる人
・短期の数字より長期の関係性を選べる人
・収入の波を許容できる人
・新しい業界の情報に触れることを楽しめる人
・「いなくても成り立つ仕事」で価値を出すことに燃えられる人
向いていない人
・毎月の給料を一定にしたい人
・他人の成果と比較してメンタルが落ちる人
・数字を追うことそのものが苦手な人
・「代理業」の存在意義に疑問を持ちやすい人
私は半分向いていて、半分向いていなかったのだと、今振り返って思います。
この仕事はブラックなのかホワイトなのか
正直、この問いに対する答えは本人の捉え方次第だと感じています。
成果が出なければ給料は上がりません。どれだけ働いても増えないことを「ブラック」と表現する人もいます。
その一方で、成果さえ出せば何も言われません。出社時間も働き方も比較的自由です。これを「ホワイト」と表現する人もいます。
実態としては、自由と引き換えに自己責任を引き受ける構造だったと言えます。
固定給制の安心感を捨てる代わりに、自分の数字次第で青天井に伸ばせる。その振れ幅が大きいか小さいかは、本人の性格と人生フェーズで決まる話だと思います。
情報商材・出会い系案件への違和感
退職を決めた本当のきっかけは、業界そのものの体質でした。
Web広告というのは、扱う案件の業種が広いのが特徴です。健康食品、エステサロン、化粧品など、いわゆるクリーンな業種だけではありません。
私が勤めていた会社では、健康食品やエステサロンといったクリーン業種に加えて、情報商材や出会い系サイト、ターゲット層の判断が難しいアフィリエイト案件などが同列で扱われていました。
新人の頃は、案件の種類を気にする余裕すらありませんでした。とにかく数字を作ることに必死で、案件の中身を吟味する立場ではなかったのです。
ところが、関係構築型の営業に切り替わってからは、自分が紹介する案件の中身が、自分自身の評価とリンクしていきました。
「○○くんだから案件をお願いする」と言われる関係性の中で、自分が紹介する案件が情報商材や出会い系サイトであることに、だんだん違和感が生まれていったのです。
メディア側の担当者が、「これは出したくない案件だな」と感じる商材を、私の名前で押し通している瞬間が、何度もありました。
数字は出る。給料は上がる。それでも、自分が誇りを持てない案件を扱い続けることに、心が追いついてこなくなったのです。
退職を決めた瞬間:誇りを持てなくなった自分
決定的だったのは、ある夜、自宅で給与明細を眺めていたときのことです。
その月は、情報商材系の案件で大きく数字を作っていました。固定給に加えて成果報酬が積み上がり、額面は90万円近い金額になっていたのです。
明細を見ながら、私はふと自問しました。
「この案件、自分の家族に説明できるか?」
答えは、できない、でした。
借金返済のために飛び込んだ業界で、最高月収を更新しながら、自分の手がける案件を家族に堂々と話せない状態に、自分は2年半をかけて辿り着いていました。
借金は、ある程度返せる目処が立っていました。返済加速のために選んだ働き方の役目は、すでに果たしつつあったのです。
その夜、私は退職の決意を固めました。
成果報酬で稼げたこと自体に後悔はありません。借金を返済できたことも、関係構築型の営業マンとして「○○くんだから」と言われる経験を積めたことも、人生の財産です。
ただ、今後もずっとこの業界に関わっていくことが誇らしく思えないという感覚が、自分の中で動かなくなっていました。
それが、私が退職を選んだ本当の理由です。
これからWeb広告営業を目指す人へ
最後に、これから固定給+成果報酬型の営業職、特にWeb広告代理店を目指す人へ伝えたいことがあります。
成果報酬型の働き方は、ハマる人にとっては最高の制度です。固定給では到達できない収入を、自分の数字一つで実現できます。「頑張った分だけ報われる」という当たり前の前提が、本当に機能している珍しい職場です。
ただ、その制度を選ぶ前に、自分自身に問いかけてほしいことがあります。
ひとつ。稼げない月の焦りに耐えられるか。
ふたつ。他人の成果との比較に飲み込まれないか。
みっつ。扱う案件の中身に、自分が納得できるか。
特に最後のポイントは、Web広告営業という代理業特有の落とし穴だと感じています。
商品を作る側ではなく、つなぐ側の仕事である以上、扱う案件は会社の方針に大きく左右されます。クリーンな案件ばかり扱える会社もあれば、情報商材や出会い系のような案件を抱える会社もあるのです。
入社前に、その会社がどんな業種の案件を扱っているかを、可能な限り具体的に確認してください。
成果報酬で稼ぐこと自体は、悪いことではありません。むしろ、自分の能力を正当に評価してもらえる仕組みです。
ただし、稼ぎながら誇りを保てる職場かどうかは、本人と会社の相性で決まります。
私の2年半は、借金返済という目的を果たした上で、自分の中の「これは続けたくない」という感覚に正直に動いた結果でした。同じように成果報酬型の営業を考えている方が、自分の中の声に耳を傾けながら職場を選んでほしいと願っています。

