「貴様らは暴利を貪ってやがる」
結婚して初めて迎えるクリスマスイブに、電話の向こうからそう怒鳴られたことがあります。
送料と手数料、合わせてほんの数十円。それだけの請求書を渡しただけでした。
これは、ある老医師とその家族に、十数年にわたって振り回された、自費出版の仕事の話です。
📌 体験者プロフィール
・性別:男性
・業界・職種:自費出版・書籍制作サービス業(対法人営業・制作進行を担当)
・企業規模:中小企業
・退職状況:現職継続中
・体験形態:実体験ベース
・体験時期:結婚直後から十数年以上にわたる出来事
※プライバシー保護のため、個人が特定されない範囲で仮名化・一部詳細を変更しています。
三人兄弟の真ん中に生まれた息子と、金に執着した老夫婦
その方は国立大学の教授を経て、私立大学の名誉教授になった老医師でした。
たまたま仕事の付き合いで、お客様としてお世話をすることになったのですが、そのご家族の事情を知ったのは、付き合いが始まってしばらく経ってからのことです。
三人兄弟の真ん中に、発達障害のある息子さんがいました。兄と妹は医者になり、それぞれ優秀だったといいます。本人も東京六大学は出ていて、決して頭が悪いわけではない。ただ、コミュニケーションに難があって、勉強はできるのに社会になじめない。就職しては辞めて、をくり返して、最後は引きこもりになってしまったそうです。
親としては、この子の先が心配でたまらなかったのでしょう。せめてお金だけは残してやりたいという気持ちが、いつからか歯止めの利かない執着に変わっていました。お金が絡むことになると、人が変わったように細かく、そして異常なほど強欲になる。そういう夫婦でした。
コピー製本の本さえも、まだ高いと値切られて
老医師は、自身のがん研究をまとめた本を出版することになりました。
とはいえ内容は、ワープロで打った原稿をそのままコピーして綴じただけの、ダイレクト製本です。装丁もなにもない、お世辞にも見映えのする代物ではありません。コストだけを考えれば、これ以上ないくらい安く仕上げた一冊でした。
それでも、値段を伝えると「高い」の一点張りでした。こちらとしては、もう十分すぎるほど切り詰めた見積もりのつもりでいたので、正直、値切られる余地がどこにあるのか分かりませんでした。それでも、根負けするまで粘られるのが常でした。
結婚して初めてのクリスマスイブに浴びせられた暴言
本ができあがったあと、知人に送っておいてくれ、と言われたことがあります。
こちらとしては、送料の実費に、数十円だけ手間賃をいただくつもりで請求書を書きました。良心的にしたつもりでした。
ところが、その請求書を渡した途端、電話口で怒鳴られたのです。
「こんなに高いのか。貴様らは暴利を貪ってやがる」
数十円の話です。正直、何を言われているのか一瞬理解できませんでした。
その日は、私が妻と結婚して初めて迎えるクリスマスイブでした。浮かれた気分で家に帰るはずが、受話器を置いたあとしばらく動けず、その夜は悔しさで涙をこぼしながら眠りについたのを覚えています。
自分こそ神だと信じた老医師と、壊れていく社員たち
老医師は、自分こそがノーベル賞を取って当然の人間だと、本気で信じていました。
そうならないのは、周りのピーアールが足りないからだ。そう執拗に責め立てられ、具合を悪くして退職に追い込まれた社員もいました。
ある時、うちの若手社員が挨拶のために老医師の家を訪ねると、自身の功績を三時間ほど延々と聞かされたそうです。その挙句、最近どうも誰も家に来ないんだが、と不思議そうに漏らしていたといいます。
ケチで傲慢で、人を蔑ろにしながら、自分と家族の利益だけを最優先にして、無理に要求を通そうとする人に、誰が好きこのんで近寄るでしょうか。
こういう、いわゆるモンスターのような人たちは、自分がイカれているとは決して思わないものです。何か問題が起きれば、周りがちゃんとしていないから発生するのだと思い込んでいる。だから権利ばかりを強烈に主張し、周りとの感覚のズレに気づかないまま暴走してしまう。がなり散らして、怒ってやった、というような態度だけが残る。傍から見れば明らかに度を越しているのに、やった本人にその意識はまったくなく、じきに忘れてしまう。その繰り返しでしかありませんでした。
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国立大学の医局を借りた打ち合わせで放たれた「世界の損失」発言
一昨年のことです。老医師の希望で、国立大学の医局を無理やり借りて打ち合わせをセッティングしたことがありました。
その席で老医師は、自著を電子書籍にした方が世界にとって有益であり、これを知らないことは世界の損失である、と言い放ちました。
その場にいた他の先生方も、さすがに驚いた様子でした。それでも誰も何も言わず、その場はそのまま収まりました。
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半年後に届いた訃報と、誰にも認められなかった墓標
それから半年ほど経った頃、老医師が亡くなったことを新聞のお悔やみ欄で知りました。
葬儀は近親者のみで済ませた、とだけ書いてありました。頼まれても、誰も行かなかったでしょう。長年苦しめられてきた関係者たちは、ようやく肩の荷が下りて、ほっと胸をなでおろしたはずです。
その方のお墓には、自身の功績が刻まれていました。誰からも認められることなくこの世を去った人の叫びのようにも見えて、正直、いくらか滑稽でもありました。
発達障害の息子に、いつか訪れるかもしれない報い
いま、あの発達障害のある息子さんは、おそらく五十歳前後になっているはずです。
我が子かわいさに業者をいじめて得た利益のつけは、どこかのタイミングで払わされることになるのではないか、そう思っています。それがいつになるかは分かりませんが、そう遠い話ではない気がしています。
モンスターのような客と、どう付き合っていくか
こういう相手には、できるだけ最小限の接触にとどめて、うまく距離を取りながら付き合うしかないと思っています。ある時はおだてて、明らかに危ないときはなだめて話を聞き、建前上は相手の利益を考えているという態度だけは崩さない。
正論をぶつけても、かえってこじれるだけです。会社から見れば、どんな相手であってもお金を出してくれる側を大事にするもので、社員の言い分を優先して聞いてくれることはまずありません。だからこそ、いかに傷口を広げずにやり過ごせるかが腕の見せどころなのだと思います。
ちなみに、この息子さんの兄弟で医者になった方たちは、世間から見ればエリートに映るかもしれません。ですが、思ったほど目立った功績につながる働きをしたとか、出世したという話は聞いていません。親の悪影響が医者の世界にまで及んでいるのか、それとも似たような性格ゆえに協力者に恵まれないだけなのか、それは私たちには分からない世界の話です。
悔しい思いを何度も飲み込みながら、じっと耐え抜いてきました。モンスターのような人がいなくなって、ようやくこうして声を上げられるようになった気がします。鳴くまで待とうほととぎす、ではありませんが、待った者の勝ちだったのかもしれません。
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理不尽な取引先に消耗している人へ
理不尽な要求を繰り返す相手ほど、自分がおかしいとは思っていないものです。
厄介なのは、会社という組織が、そういう相手ほど「お客様」として大事に扱ってしまう構造そのものにあります。
距離を詰めすぎず、耐えることに意味を見出しすぎないことも、自分を守るための選択肢のひとつです。
困った時の選択肢
【理不尽な取引先対応に疲れている方へ】
転職を前提にせず、今の状況やこれからの働き方を一度整理してみたい方には、キャリアコーチングという選択肢もあります。
→ キャリア相談で頭を整理する【キャリート】(転職前提なしのキャリアコーチング)
そのほか、状況に合わせて選べる窓口も挙げておきます。
・もう限界だと感じていて、会社を辞めることも視野に入れている方は
→ 弁護士法人ガイア(退職代行)
・理不尽な対応に振り回されて心がすり減ってしまった方は、まず自分の気持ちを整理するセルフケアから
→ 心のAIパートナー【Awarefy】(自己理解・セルフケアアプリ)
公的な窓口としては、総合労働相談コーナー(厚生労働省)や、よりそいホットライン(0120-279-338)が無料で相談に乗ってくれます。
気になった一冊を、まず無料で試してみる方法もあります。理不尽な相手との距離の取り方を扱った本も、案外多いものです。
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神経をすり減らす対応が続くと、肩や目の疲れも知らないうちに溜まっていきます。そんな負担を和らげるために、卓上で使える温感アイマスクや肩用のマッサージ器を使っている人もいます。

