会社勤めのサラリーマンが、ある日いきなり職人の世界に飛び込む。
今思えば、よくあんな無茶をしたなと思います。
これは、まったくの異業種からパティシエになった私が、朝6時から終電までの個人店で過ごした日々の話です。
📌 体験者プロフィール
・性別:男性
・業界・職種:製菓(パティシエ)→料理人→パン職人(飲食・食の職人)
・雇用形態:従業員(製菓店・レストラン・パン店に勤務)
・企業規模:個人経営の店
・在籍期間:パティシエとして約5年(その後、料理・パンの世界へ転身)
・当時の立場・役職:異業種からの転職組(見習いからスタート)
・退職状況:パティシエの個人店は退職(食の世界で転身を重ねた)
・体験形態:実体験ベース
※プライバシー保護のため、個人が特定されない範囲で仮名化・一部詳細を変更しています。
営業企画から、職人の世界へ
それまでの私は、ごく普通の会社員でした。
いわゆる営業企画みたいな仕事をしていて、スーツを着て、9時に出社して。デスクとお客さんの間を行ったり来たりするような毎日です。
それが、急に製菓の世界へ飛び込むことになりました。
なぜそうしたのか、というのは長くなるので省きますが、とにかくお菓子を作る仕事がしたかった。その一心でした。
ただ、現実はそう甘くなくて。
職人の世界というのは、思っていたものとはずいぶん違っていたんです。転職してしばらくは、思うようにいかないことばかりで、正直かなり辛い日々が待っていました。
朝が、最初の壁だった
ご存じの方も多いと思いますが、パティシエやパン職人の仕事は、とにかく朝が早い。
この時間に体を慣らすのが、まず大変でした。
前の仕事は9時出勤でしたから、そこから3時間以上も早いスタートになるわけです。たった3時間と思うかもしれませんが、これがきつい。
明日、寝坊しないだろうか。
その不安がずっと頭の隅にあって、それ自体がストレスになっていく。眠りが浅くなって、夜中に何度も目が覚めるようになった時期もありました。体への負担は、思っていた以上でしたね。
ちなみに、パティシエはまだマシなほうかもしれません。
パンの職人さんなんかは、夜中から動いていたりしますから。早朝というより、もう夜勤に近い世界です。あれを思うと、自分はまだ恵まれていたのかな、と今では思います。
朝6時から終電、繁忙期は徹夜
職場によっては、8時間労働ときっちり決まっていて、残業もしなくていいところもあるそうです。
でも、私がいたのはバリバリのブラック、個人経営の店でした。
朝は6時から。夜は終電まで。繁忙期になると、徹夜なんてことも当たり前にありました。
気の荒いシェフと、絶えない人の出入り
そこに加えて、シェフがなかなか気の荒い人で。
入っては辞めて、入っては辞めて。店はいつも人手不足でした。
まあ、業界あるあると言えばそうなので、特に驚きはしませんでしたが。ひどいときは、月に3人が急にいなくなった、なんてこともありましたね。
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集まってくる若者たちの、意外な素顔
ただ、一つだけ不思議に思ったことがあります。
転職する前の私が描いていたイメージは、こうでした。きっと、いつか世界で有名なパティシエになりたいとか、自分のかっこいい店を持ちたいとか。そういう大きな夢を持った若者が集まる職場なんだろう、と。
確かに、何人かはそうでした。
でも、他の多くは違ったんです。
ただ好きなお菓子を作っていられれば幸せ。そんな、あまり欲のない子が多かった。
そういう子たちは、あまり厳しくされると、やっぱりついて来られなくなるんですね。
しかも、専門学校を出てそのまま入ってくる子がほとんどで、社会人としての経験がない。挨拶もろくにできない子がいたりして、ちょっとしたカルチャーショックを受けました。
雑用ばかりの日々と、好きだという気持ち
経験も知識もなく入った私は、最初はほとんど雑用ばかりでした。
それでも、好きなお菓子の世界で働けている。
その一点だけが励みで、なんとか持ちこたえていたように思います。
2年目あたりからでしょうか。少しずつ、作れるものも増えていった気がします。
ただ、それでも他に比べて過酷な仕事だな、という感覚は、ずっと消えませんでした。
個人店の常識と、腕の磨き方
あるとき、別の店のパティシエと話す機会がありました。
その人のところも、1日14時間働くのがまず基本、というようなことを言っていて。ああ、個人店というのは、だいたいそんなものなんだな、と思いました。
たぶん、8時間程度の仕事では、たいして腕も磨かれないんじゃないでしょうか。
それを当たり前と思えるかどうか。そこで、道が分かれていくような気がします。
世界レベルの人たちというのは、寝る時間も惜しんでやっていますからね。そんな人たちがいくらでもいる世界で、8時間労働で対抗するというのは、やっぱり無茶なんだと思いました。
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驚くほど安い給料の、不思議な辻褄
さらに言うと、給料がびっくりするほど安い。
じゃあ、どうやって生活していくんだ、という話になりますよね。
ところが、です。
何しろ遊ぶ暇なんてありませんから、お金を使うこともそんなになくて。結局、なんとか生活できてしまう。妙なところで辻褄が合ってしまうんです。
もちろん、それがいいことだとは思いません。
やっぱり、働いた分に見合った収入がある。そのほうが健全だよな、とは思いますけどね。
料理の世界へ——任されたデザート
パティシエを5年ほどやった後、今度は料理に興味が湧いてきて、レストランへ移りました。
目的は、料理の勉強です。
ところが、なんだかんだでデザートを任されることが多かったですね。パティシエをやっていた、というだけで。
そして、ここで思いがけないことに気づきます。
料理の盛り付けというのは、けっこう気を使う作業なんですが、これがあまり苦にならない。パティシエ時代に、細かい作業を散々やってきたおかげでした。
早く、綺麗に仕上げる。
その点では、料理人よりもパティシエのほうに分があるな、と感じたものです。
パンの世界で気づいた、共通点
料理の次は、パンの世界に入りました。
近い業界のようでいて、やっぱりそれぞれに専門の知識がいるんですね。環境が変わるたびに、それなりの苦労はありました。
ただ、続けているうちに、ここでも同じことに気づいたんです。
パンも、仕上げでいろいろ手を加えるものがあります。それが、基本的にはケーキの仕上げと同じ要領なんですね。
むしろ、ケーキほど細かくはありませんから。パン職人の人たちより、私の仕上げのほうが綺麗だったりしました。
あの辛さが、後の自分を支えていた
あんなに辛かったお菓子の仕事。
でも、その経験があったからこそ、その後の仕事では、それ以上に辛いと感じることが、あまりなかった気がします。
もちろん、あまりのぼせ上がると人間関係にヒビが入りますから、そこは気をつけないといけません。
基本は、謙虚に向き合う。余計なことさえ言わなければ、周りはちゃんと信頼してくれました。
パティシエというポジションは、料理の世界でそこまで高く評価されているわけでもありません。
でも、これから少しずつ変わっていくのかもしれない、とも思っています。
パン屋でも同じで。パティシエ経験のあるパン職人の店が評判を呼んで、人気店になる、なんていうのは割とよく聞く話です。
もちろん、一人で何でもできるわけではないので、一緒に働く人との相性もあります。
それでも、食の世界で働くなら、一度パティシエを経験しておくというのは、一つの武器になるのかもしれません。
編集部より
パティシエの世界では「長時間こなしてこそ腕が上がる」という考え方が根強く残っています。技術が反復で身につく面はありますが、それを薄給や徹夜を正当化する理由に使う個人店が多いのも事実です。一方でこの方の歩みが教えてくれるのは、製菓で鍛えた手の速さと正確さが、料理にもパンにも移植できる確かな武器になるということ。きついだけで終わらせない人は、どこへ行っても通用する技術を持ち帰っています。
辞めるか続けるかを決める前に、いま感じている辛さが「技術が伸びている途中の辛さ」なのか、「ただ削られているだけの辛さ」なのか、一度切り分けてみてください。
一人で抱え込まず、信頼できる人や、下にあるような窓口に、いまの状況を言葉にしてみるのもいいと思います。
困った時の選択肢
【飲食の現場で消耗していると感じている方へ】
同じ飲食の世界でも、店が変われば働き方は驚くほど変わります。関西エリア(大阪・京都・兵庫・滋賀・奈良)にお住まいで18〜49歳なら、業界に特化した相談先で、いまより条件のいい現場を探してみるのも一つの手です。
→ 飲食業界に特化して転職先を探す(関西エリア・RestLab)
そのほか、状況に合わせて選べる窓口を挙げておきます。
・気の荒いシェフや辞めづらい個人店から、自分ではどうしても抜け出せない方は
→ 退職代行で辞める意思を伝える(弁護士法人ガイア)
・辞める前に、他業界の働き方や年収・口コミを調べて比べておきたい方は
→ ワンキャリア転職(口コミ・選考体験談で他業界を知る)
・続けるか辞めるか、自分に合う働き方そのものを整理したい方は(22〜39歳向け・転職前提なしのキャリア相談)
→ キャリート(自己分析・自分らしい働き方の相談)
・心身が限界に近いと感じる方は、抱え込む前に、自分の気持ちを整理するセルフケアから
→ 心のAIパートナー【Awarefy】(自己理解・セルフケアアプリ)
公的な窓口としては、総合労働相談コーナー(厚生労働省)や、よりそいホットライン(0120-279-338)が無料で相談に乗ってくれます。
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