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医療法人本部の資材部で働いた7年|内側から見た医療とお金のリアル、夫を看取り辞めた50代の話

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「足りなくなるらしい」。

そんな噂がどこからともなく流れてきた、まさにその日のことでした。

私の手元にも上からの指示が降りてきて、消耗品が、ふだんでは考えられない量で倉庫に積み上がっていったんです。

世の中が不安になるより前に、もう動いている。

これは、いくつもの病院と看護学校を抱える大きな医療法人の本部で、七年あまり資材の仕事をしてきた私が、内側から見てきた医療の話です。

📌 体験者プロフィール

年代・性別:50代女性

業界・職種:社会医療法人の本部・資材部(医療材料の調達・納品オペレーション)

雇用形態:パート・アルバイト

企業規模:大規模法人(複数の病院と看護学校を運営・従業員1000人以上)

在籍期間:7年3か月

退職状況:退職済み(家族の看病のため定年を待たずに退職)

体験形態:実体験ベース

体験時期:2010年代

※プライバシー保護のため、個人が特定されない範囲で仮名化・一部詳細を変更しています。

資材部は、現場と卸のあいだに立つ仕事でした

私がいたのは、社会医療法人の本部にある資材部という部署です。

注射器、カテーテル、ガーゼに手袋。そういう毎日たくさん使う消耗品から、人工心臓のような特別なものまで。医療の現場で使うあらゆる物を卸会社から仕入れて、傘下の病院へ届ける。それが仕事でした。

卸会社と値段の交渉をして、現場の声を拾って、必要な物を切らさないように確保する。

医療の資格はいりません。私が持っていたのは、事務の検定くらいのものです。

それでも、本部にいると、いろんな情報が流れてきました。病院という場所が、外から見ているのとはずいぶん違う顔をしていることを、私はこの七年で知ったんです。

「足りなくなるらしい」と噂が流れた日

世の中で何かが起きて、物が不足するかもしれない。そんな情報が流れた途端でした。

すぐに大きな力が働いて、消耗品が必ず大量にストックされる。その動きを、私は現場で見ていました。

患者さんが困らないように、という言い方もできます。でも、あのスピードと量を間近で見ていると、それだけではないものも感じました。

足りなくなる前に押さえられる人と、押さえられない人がいる。

医療の世界にも、そういう線がはっきりとあるんだなと、最初に思い知らされた出来事でした。

事務の私が、選挙に駆り出される

これは、外の人にはなかなか信じてもらえない話かもしれません。

法人にゆかりのある人を政治の世界へ送り出すために、私たち事務職まで総動員で活動に駆り出されることがありました。

本部は、医療をどう続けていくかを考える場所です。政治の世界に何かのつながりを持っていれば、物事がスムーズに運ぶことが多い。だから、そこにはずいぶん力もお金も注がれていました。

医療と政治は、こんなに近いところで結びついているのか。

事務の机を離れて頭数の一人になりながら、私はいつも、なんとも言えない気持ちでいたのを覚えています。

海外から看護師を迎える、という試み

人手が足りない。それは医療の世界でずっと言われ続けてきたことです。

私が在職していたあいだにも、海外から看護師を目指す人を、国の補助金を使って看護学校へ受け入れたことがありました。アジアの国々から、何人も来ていました。

けれど、言葉の壁はとても高かった。

三年かけて教育をしても、結局、一人も国家試験に受かりませんでした。

残ったのは、補助金が法人の収入として入ったという事実だけ。来てくれた人たちの三年は、どこへ行ってしまったんだろうと、今でも思うことがあります。

本部に、お医者さんはいませんでした

意外に思われるかもしれませんが、本部にお医者さんはいません。

そこにいるのは、大学で経営を学んだ人や、薬剤師の資格を持つ人たち。つまり本部は、治療をする場所ではなく、いかに経営を安定させるかを考える機関なんです。

だから、よく見えるものもありました。

たとえば、お医者さんへの報酬。あまりに高くて、それが経営を圧迫しているという現実も、数字を扱う側にいると隠しようがありませんでした。

命を扱う仕事の尊さと、それを支えるお金のシビアさ。その両方が、本部の机の上には並んでいました。

同じ薬が、店によって値段が違う

恥ずかしながら、私はこの法人に入って初めて知ったことがあります。

処方箋を持って薬を出してもらうとき、お店によって値段が違うんだということを。

そして、医療の世界には、はっきりとした序列があるということも。

いちばん上にお医者さんがいて、薬剤師、医療機器のメーカー、製薬会社と続いていく。その下に看護師がいて、介護福祉士、ケアマネージャー、ヘルパーさん……と並んでいくんです。

人の命に関わる仕事に、こんなにくっきりと上下があるのか。

外から見ていたら、たぶん一生気づかなかったと思います。

払われないお金を、追いかける

患者さんは、本部にとっては大切なお客様です。

でも、お客様である以上、お金の話はついて回ります。治療費が払われないまま積み上がっていく。それを追いかける仕事を担う人も、本部には必要でした。

未払いは、いつも年間で二千万円ほど抱えている状態。

人の生死に関わる場所でも、お金は確かに動いている。きれいごとだけでは、病院は一日も回らないんだということを、私はこの数字でいやというほど学びました。

産んだ翌日に、いなくなる

いちばん驚いたのは、これかもしれません。

臨月で突然運ばれてきて、その場で産み落として、翌日には産婦さんがいなくなってしまう。そういうことが、後を絶たなかったんです。

赤ちゃんだけが残されて、誰も迎えに来ない。

病院という場所には、私の想像していなかった事情を抱えた人が、こんなにもやってくるのか。

そのたびに、世の中の見えていなかった部分を、無理やり見せられているような気持ちになりました。

「透析は鉄板」と呼ばれていた

これも、内側にいたから聞こえてきた言葉です。

人工透析の患者さんは、安定した収入源の鉄板だと言われていました。

患者さんを数字で語る言い方には、最後まで慣れませんでした。

それから、看護師さんにもいろんな人がいました。ただOLより給料がいいから、という理由で選んだ人もいる。お医者さんでも、外科なのにとにかく手術が下手で、別の病院へ緊急で運んだことだってあったんです。

肩書きだけでは、その人の腕までは分からない。

病院は、ちゃんと選ばなければいけない。本部にいると、それが痛いほど分かりました。

本部にいると、病院は選ぶものだと分かる

いろんな情報が集まってくる場所だからこそ、見えてしまうことがあります。

健康診断ひとつとっても、営業として企業に出向いて契約を取ってくる。利益を出すためには、それも欠かせない仕事なんです。

その一方で、本部にはこんなことを言い放つ人もいました。

「八十歳を過ぎて乳がん検診に来るか? もういいでしょ」

患者さんの命の重さが、どこかで数字に置き換わってしまう瞬間を、私は何度も目にしました。

口コミは、今やSNSですぐ広がる時代です。だからこそ、病院はやはり選ばなければいけない。そう強く思うようになりました。

関連記事:病院の地下・薬品倉庫で働いた1年|女性9割の閉鎖空間と「ただの業者」扱いに削られた話

懇親会という名の、接待

資材という特殊な部署にいると、外から声がかかることもありました。

医療機器のメーカーや卸会社から、懇親会と名のついた接待を受ける機会が、たびたびあったんです。

何を導入するか。その判断は、部のトップの胸ひとつにかかっています。

私が在職していたあいだに、傘下のある病院へ、高額な手術支援ロボットが導入されました。

契約がどんな経緯で決まったのか、パートの私には分かりません。でも、決まるまでに裏でいろんな動きがあっただろうことは、近くにいれば自然と察しがつきました。

物を選ぶという仕事の裏側には、表からは見えないやりとりがある。

それを知ってしまったことも、この七年でした。

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看護助手という、立場の人たち

病院には、看護助手というポジションがあります。

特別な資格はいりません。看護師さんのお手伝いをする仕事で、シーツを替えに行ったり、消耗品を補充したり、患者さんの着替えを手伝ったり、車椅子を押したり。医療行為でなければできることを担います。

でも、現実は少し違っていました。

看護師さんが嫌がる仕事を、ぜんぶ投げられる。そう、看護助手さんから聞いたことがあります。

特に助手さんには夜勤がないので、夜のあいだのおむつ替えが朝まで手をつけられず、出勤してきた助手さんに回されることもあったそうです。

資格がいらない仕事は、誰にでもできると言われがちです。

でも実際は、誰もやりたがらない仕事を引き受けているだけだったりする。いちばん下に置かれた人たちのことを、私はずっと忘れられずにいます。

いちばん手厚くしてほしいのは、介護の現場です

これは、私の個人的な願いです。

介護の仕事をしている人たちの給料を、もっと高くしてあげてほしい。本部で数字を見ていたからこそ、心からそう思います。

病院には三か月ルールというものがあって、その期間を過ぎると、患者さんは外へ出されていきます。あとはケアマネージャーさんに丸投げで、介護やヘルパーさんに託される。

いちばんしんどいところを担っている人たちが、いちばん報われていない。

その順番は、どこかおかしいと、今でも思っています。

義父母と夫を見送って、教わったこと

私自身、義父と義母、そして夫を、通算で十年ほど介護してきました。

義父と義母は最終的に施設へ入って、看取りまでお願いすることができました。夫は自宅で介護をして、私が看取りました。あのときヘルパーさんに、本当に助けられたんです。

ヘルパーさんや介護士さんが、患者さんに懸命に寄り添う姿。

それと、選挙に駆り出されていた自分。

その二つのあいだにあった距離は、どうしても埋まりませんでした。日本の医療の仕組みは、そう簡単には変わらないんだなと、教えられた七年だったと思います。

結局、夫の看病があって、私は定年まで働くことは叶いませんでした。

もう少し自分の目でいろんなケースを見て、医療の格差や序列の現実に、ほんの少しでも抗えたら。そんなことを願いながら、今も医療の現場で頑張っている人たちを、静かに応援しています。

編集部より

医療を「経営」として見る場所から、現場をながめていた——この体験談の芯は、そこにあると思います。物を仕入れ、未払いを追い、人を政治へ送り出す。患者さんの顔が直接は見えない本部だからこそ、医療がいくつもの判断とお金の上で動いている現実が、かえってよく見えていたのでしょう。白衣を着た人を頂点にした序列の話も、内側にいた人の実感として重く響きます。

業界の内側を知ることと、自分自身の働き方をどうするかは、別の問題です。長く一つの場所にいると、当たり前とそうでないものの境目が見えにくくなります。辞めるにせよ続けるにせよ、一度立ち止まって、自分が積み上げてきたものを言葉にしてみてもいいのかもしれません。一人で抱え込まず、信頼できる人や下記の窓口に話してみるのも一つの方法です。

困った時の選択肢

【40代・50代で、これまでの経験を棚卸ししたい方へ】

長く働いてきた人ほど、自分が何を積み上げてきたのかが見えにくくなるものです。40代・50代のキャリア相談に特化したサービスなら、転職を前提にせず、これまでの経験と、これからの働き方を一緒に整理してくれます。

40代・50代のための経験の棚卸し・キャリア相談【キャリフト】

そのほか、状況に合わせて選べる窓口を挙げておきます。

・介護・福祉の資格を活かして、待遇の良い職場を探したい方は
 → 介護・福祉の資格を活かす転職サポート【介護JJ】

・医療業界の内側や、他業界の働き方・年収を口コミで調べて比べておきたい方は
 → ワンキャリア転職(口コミ・選考体験談で他業界を知る)

・気持ちの整理がつかないと感じる方は、抱え込む前に、自分の心を見つめ直すセルフケアから
 → 心のAIパートナー【Awarefy】(自己理解・セルフケアアプリ)

公的な窓口としては、総合労働相談コーナー(厚生労働省)や、よりそいホットライン(0120-279-338)が無料で相談に乗ってくれます。

気になった一冊を、まず無料で試す方法もあります。医療や介護の現場を内側から書いた本は、働く人の景色を少しだけ変えてくれます。

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一日中パソコンに向かう本部の事務仕事は、気づかないうちに腰や背中に負担がたまっていきます。長く座って働く人が、姿勢を支えるクッションを椅子に置いて凌いでいることも多いようです。

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