受話器を置いたまま、事務の人がそのまま忘れたように放置する。
しばらくしてから受話器を取り上げたと思ったら、確認もせず、そのまま電話を切ってしまった。相手は、外部の製薬メーカーの担当者だった。近くでそれを見ていた私は、注意していいものかどうかも分からず、結局黙って自分の仕事に戻った。
これは、大学を出て医療系の資格を取り、いくつもの病院や企業を渡り歩いてきた私が、資格を取って初めて思い知らされた、医療業界の人間関係の話です。
📌 体験者プロフィール
・年代・性別:30代男性(体験当時35歳)
・業界・職種:薬剤師(病院薬剤師)
・雇用形態:正社員
・企業規模:中〜大規模病院
・在籍期間:1年
・当時の立場・役職:一般薬剤師(新卒入職)
・体験形態:実体験ベース
※プライバシー保護のため、個人が特定されない範囲で仮名化・一部詳細を変更しています。
同じ資格を持つ人たちだけの、閉じた職場
大学を卒業して、医療系の資格を取得した。不本意ながら、今に至るまで転職を重ねたこともあって、いろいろな企業や病院を経験してきた。
こういう理不尽な人間関係が慣習になっているのは、医療業界だけの話じゃないと言う人もいるだろうと思う。それでも、書いておきたい。
卒業してすぐの就職先は病院だった。大きめの病院だったので、関わる人は、同じ資格を持って働いている人ばかりだった。人が増えれば、合わない人がいるのは当然といえば当然かもしれない。
直属の指導係だった先輩は、ごく普通の人だった。教えてくれることは教えてくれる。ただ、一度聞いたことをもう一度尋ねると、「前に教えたよね」という空気になる。当時の時代感覚もあったと思う。新人の頃は、聞き返すこと自体が申し訳なくなって、分からないまま作業を進めてしまうこともあった。
一方で、話しかけるだけで嫌そうな顔をしてくる先輩もいた。話しかければ無視される。はーっとため息をつかれる。「自分で調べたら」と、最初から助ける気がないような即答が返ってくる。知らないと言えば、それだけで見下された。廊下ですれ違うだけで、今日は機嫌が悪いんだなと分かるようになっていった。
この先輩が特別だったわけではない。転職を繰り返す中で、他の職場でも同じようなタイプを何度も見かけた。時代が変わって若い世代の考え方が変わっても、性格の悪い人はいなくならない。中途半端に学力がある人が集まる業界だからなのか、それとも、同じような医療従事者同士でずっと関わり続けているから環境が変わらないのか。今では、そう考えるようになった。
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医師を頂点にした序列と、気を遣う文化
これは、私と同じ資格を持った人たちとの話であって、他の医療従事者にまで言及するのはどうなのか、という意見もあると思う。それでも私は、他の医療従事者も似たようなものだと感じている。
看護師は、免許を取得しても環境になじめずに辞めていく人が多い。それが慢性的な人手不足の一因になっているくらい、人間関係の環境は良くないと感じている。
何より、歴史的に医師が頂点に君臨してきた構造があって、医療業界全体として「医師とその他」という関係が今も続いている。昔に比べれば、感覚の近い医師も増えてきた気はする。
とはいえ、医師を敬うような空気は根強く残っていて、自分より年下の医師にまで「先生」と呼び、必要以上に気を遣わなければならない場面がある。呼び方ひとつ間違えただけで空気が変わることもあり、正直、馬鹿らしいと思いながらも従うしかなかった。医師同士の関係にもいろいろあって、それが周りの雰囲気に影響を及ぼすこともある。
「〇〇先生には、△△先生の話はしないように」と、面倒なことを注意されたことがある。誰と誰の仲が悪いかまで把握して、言葉を選ばなければならない。それが、当たり前のこととして職場に根付いていた。
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定時で帰ろうとすると、地味な嫌がらせが待っていた
ここからは、ブラックな側面の話になる。
ある種のヒエラルキーの中にある病院では、医師の給与は時間外労働も含んだ金額のはずだった。それなのに、早く帰ること、定時に帰ることに対して、地味な嫌がらせをしてくることがあった。表立って怒られるわけではないのに、なんとなく空気が悪くなる、というのが一番厄介だった。
だから、その業務を終わらせるために、数分だけ残業をする。けれど給与明細を見ると、残業代がついていない。事務方に指摘しても、うやむやにされて流されてしまう。
数分の話だから、と自分に言い聞かせたこともある。それでも、それが積み重なっていく感覚は、なんとも言えず嫌なものだった。塵も積もれば、という言葉が頭をよぎった。
事務方も、性格が悪くなっていく職場だった
事務方も、この環境の中で性格が悪くなっていくのだろうか、と思う出来事があった。
外部の製薬メーカーから電話がかかってきたとき、事務の人は「お待ちください」と言って受話器を置き、そのまま放置した。しばらくして受話器を取り上げたと思ったら、確認もせずそのまま電話を切ってしまった。
ありえない話だが、病院がそう簡単には潰れないという前提があるからこそ、そういう態度が平気でできてしまうのだと思う。製薬メーカーからすれば、迷惑以外の何物でもない対応のはずだ。
それだけではない。事務方は噂話が大好きで、何も話さない方がいいと思えるほどだった。どの部署にも伝わるのか、何か話せば嫌味をかぶせられて返ってくる。性格の悪い人ばかりが揃っているような感覚だった。
当然のように派閥のようなものができあがり、なじめない人はどんどん辞めていった。人の入れ替わりが激しい職場だった。
医療業界の人間関係に限界を感じている人へ
「医師を頂点にした序列」は、資格や専門性の違いというより、病院という組織が長い時間をかけて積み重ねてきた慣習に近いのかもしれません。
定時で帰ることへの嫌がらせや、数分の残業に残業代がつかない実態は、個人が我慢して飲み込むしかない話ではなく、労働基準法に照らして相談していい問題です。
同じ資格を持つ人たちだけの閉じた環境にいるからこそ、一度、外の物差しで確認してみることには意味があります。
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