「あ、来週から会社来なくていいから」
上司からの電話越しのひと言に、私は震える手で何も言えなくなりました。悔しさと同時にこみ上げてきたのは、正直、安堵でした。これは、就職氷河期の就活地獄をどうにか抜けてやっと掴んだ「正社員」の椅子を、2年でボロボロにされて追い出された、WEBコーダーの話です。
📌 体験者プロフィール
・年代・性別:20代女性(体験当時)
・業界・職種:WEB・紙媒体制作会社/WEBコーダー
・雇用形態:正社員
・企業規模:中小企業
・在籍期間:約2年
・退職状況:退職済み(会社都合)
※プライバシー保護のため、個人が特定されない範囲で仮名化・一部詳細を変更しています。
就職氷河期のどん底から、やっと掴んだ「正社員」の椅子
学校を卒業してすぐ、私は就職に失敗しました。
面接に落ち続けて、履歴書の宛先を書くだけで手が止まる時期もありました。
アルバイトとパートを転々としながら就活を繰り返して、心が半分折れかけていた頃に、やっと手にできたのが「正社員」という椅子でした。
拾ってくれたのは、WEBと紙媒体の制作会社。
会社員として、しかも「制作会社」というキラキラした響きの業種に就けたことが、当時の私にはただただ嬉しくて。
家族もすごく喜んでくれて、ケーキを買ってお祝いしてくれたのを覚えています。あの日のケーキの甘さは、今でも覚えています。
ここから2年間、あのキラキラした響きとは正反対の日々を積み重ねることになるとは、あの日の私はまだ知りませんでした。
最初は良かった。でも半年で「定時」が消えた
最初から地獄だったわけではありません。
入社したては上司も優しくて、定時になると先輩たちも「もう帰りなよ」と声をかけてくれていました。この会社を選んでよかった、と本気で思っていた時期です。
でも、仕事に慣れてきた入社半年あたりから、少しずつ定時で帰れなくなっていきます。
最初は19時退社。気づけば21時退社。
そのうち、終電に間に合えば御の字という時間での退社が当たり前になっていきました。
責任感が育って、できることが増えて、仕事量が増えただけ。そう思おうとした時期もありましたが、違いました。
人を人とも思わないパワハラ上司が、仕事を次々と押しつけてきていただけだったんです。
「制作会社なら普通だよ」――終わらない無理難題
定時をとうに過ぎた夜20時、上司が私にこう言いました。
「この資料、明日の午前中までにお願い」
え、20時ですけど。明日の午前中って、今からもう徹夜で作るしかないじゃないですか。
でも、当時の私、入社1年目の私にそんなことを言い返せるはずもなく。そのまま徹夜で資料を作りました。もちろん、翌朝も8時半から仕事です。始発前に仮眠を1時間取れたら御の字でした。
この上司の口癖はいつも同じでした。
「こんなの制作会社なら普通だよ?」
新卒として正社員に拾ってもらった私は、この言葉にすっかり洗脳されていって。内心「え……」と思いながらも、強く言い返すことなく仕事を続けていました。今思えば、あの一言が私から「おかしい」と感じる感覚をじわじわ奪っていったんだと思います。
クライアントからの無理難題を全部一人で抱え込んで、交渉ひとつしないイエスマンの上司。その皺寄せは、全部制作部に流れてきます。結局、納期ばかりが押していって、泊まり込みの仕事も珍しくなくなっていきました。
「制作会社だから」
今思えば、本当にそうだったのか、今でも疑問です。
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休憩なし、休日なしのスケジュール表が語る2年間
当時の平日のスケジュールを書き出すと、こうなります。
・6:30 起床、シャワーを浴びてご飯を食べて化粧して家を出る
・8:30 出社
・12:00 コンビニで買ったカップ麺を自分のデスクですする
・18:00 終電は確定しているので、コンビニで軽食を買ってデスクで食べる
・24:30 退社、終電に飛び乗る
・25:30 帰宅、途中で買ったカップラーメンとチューハイで晩ご飯。風呂に入る体力もなくそのまま26時就寝
これが平日です。では、休日はどうだったか。
・6:30 起床、シャワーを浴びてご飯を食べる
・8:00 溜まった洗濯物と部屋の掃除
・11:00 家を出る
・12:00 出社時にコンビニで買ったカップ麺を自分のデスクですすりながら業務スタート
・18:00 終電は確定しているので、コンビニで軽食を買ってデスクで食べる
そのあとは、平日と同じです。
つまり、「休日」なんてものは、私にはありませんでした。書き出してみて自分でも笑ってしまいます、これのどこが「休日」なんだろうって。
こんな生活を1年半続けた頃、家族に言われたひと言が今も忘れられません。
「そんな生活してたら、あんた、死ぬよ」
「ああ……、死ぬのは嫌だな」
漠然とそう感じて、私は仕事を辞める決意を固めました。
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辞めると言った日から、さらに酷くなったパワハラ
「辞めたいです」
退職願いと一緒に、辞める意思をパワハラ上司に伝えました。そこから退職日までの間、パワハラはむしろエスカレートしていきます。
退職日は自分で決めさせてもらえず、「2か月はいてもらわないと困る」と、希望していた日を勝手に変更されました。
今まで取っていなかった昼休憩。1分でも超えると、みんなの前に呼び出されて、休憩オーバーを大声で叱られる。
労働時間はとっくに超過しているのに、休憩1分でこんなに責められるなんて。理不尽すぎて、途中から怒りより呆れの方が大きくなっていました。
終わらない仕事量は増える一方で、出したデザインへのダメ出しは大声で。社長の前で「この子使えないから」と嫌味を言われたこともありました。
ネチネチと、ねちねちと。辞めると決めた人間に、ここまでするんだと、正直驚きました。
電話一本、「来週から来なくていいから」
そんなある日、パワハラ上司から急に電話がかかってきました。
「あ、来週から会社来なくていいから」
とんでもない話です。でも、怒りと同時に、こんなブラックな会社に来週から行かなくていいという現実に、嬉しさもこみ上げてきました。
電話を切ったあと、自分の手が震えていたのを今でもよく覚えています。怒りなのか、安堵なのか、自分でもよく分からない震えでした。
こうして私は、無事に(?)このブラック企業を辞めることができました。
あの時「死ぬよ」と、死の宣告みたいな言葉で私を止めてくれた家族に、今は本当に感謝しています。あの一言がなかったら、私はまだあの場所にいたかもしれません。
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WEBコーダーとして、パワハラと長時間労働に限界を感じている人へ
「制作会社なら普通だよ」という上司の口癖は、サビ残業や休日出勤を”業界の慣習”にすり替えて違法な働かせ方を若手に飲み込ませる典型的な言い回しです。
休憩1分の叱責と徹夜の資料作成が同じ職場で同居していたように、人手不足のしわ寄せは結局、声を上げにくい立場の人に集中します。
それでも辞めると言い出せなかった気持ちは、決して甘えではありません。
困った時の選択肢
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