「先生、あなたは何なんですか!?」
放課後、職員室で同僚と立ち話をしているところへ、ある保護者が怒鳴り込んできました。
担任でもなければ、部活動でも関わりのない、1年前にたった1年だけ受け持った子の親です。
これは、教員生活が20年を超えたころに巻き込まれた、身に覚えのない濡れ衣と、半年にわたって振り回された保護者対応の話です。
📌 体験者プロフィール
・年代:体験当時30代後半〜40代前半(教員生活20年超・性別の記載は元素材になし)
・業界・職種:公立学校教員(小学校)
・雇用形態:正社員(教諭)
・当時の立場:学級担任
・在籍期間:教員生活20年以上(複数校を異動)
・退職状況:退職済み
・体験形態:実体験ベース
※プライバシー保護のため、個人が特定されない範囲で仮名化・一部詳細を変更しています。
大学を出て最初に赴任した、田舎町での10年間
大学を卒業してからの10年間は、田舎ののんびりとした環境で教員生活を送りました。
もちろん山あり谷ありで、順風満帆とはいかない日々でしたが、子どもたちだけでなく地域の人にも保護者にも同僚にも恵まれて、今思えば有意義に過ごせていたと思います。
赴任したばかりのころは「教員なんて、自分に向いてなかったかな」と後悔することもありました。
それでも忙しい毎日を過ごすうちに、自分の力を発揮できる場面が少しずつ増えていって、気づけば自信もついていました。
初任校を離れる日、送別会で思わず涙がこぼれたのを、今でも覚えています。
11年目、都市部の「研究指定校」で味わった名ばかりの評判と長時間労働
11年目、都市部、それも中心市街地にある学校へ転勤になりました。
長男が小学校に入学するタイミングで、実家のある町への異動を希望してはいたのですが、まさかここまで街のど真ん中の学校になるとは思っていなくて、正直驚きを隠せませんでした。
その学校は、古くからの「研究指定校」でした。
校風とプライドと、校長の力なのか、研究に熱心な先生ばかりが集まってくるような学校です。
田舎で10年、たいした研究らしい研究もしてこなかった自分が、なぜこの学校に配属されたのかは、今でもよく分かりません。
ただ、全員が「研究」というひとつの目的に向かって努力している学校というのは、居心地は悪くありませんでした。
30代という、体力も気力も充実していた時期だったこともあって、毎日8時、9時、遅いときは11時、12時まで学校に残って仕事をすることも珍しくなかったです。
今で言えば、まぎれもなく「ブラック労働」だったと思います。
けれど当時の自分は、それをそこまで苦痛だとは感じていませんでした。それも事実です。
教職20年を過ぎたころ、二人目の異動先で起きたこと
都市部の研究指定校での勤務を経て、教員としての力にも少し自信がついてきたころ、次の学校への異動になりました。
同じ都市部ではあるものの、中心部からはやや離れた住宅地にある学校でした。
校区には高級マンションや高級住宅街が点在し、公舎なども建つような土地柄で、教育に対する保護者の関心は総じて高い地域だったと思います。
子どもたちの学力も高く、全国学力テストのようなものでは、いつも市や県のトップ争いをするような学校でした。
都市部といっても近くには自然公園があって、子どもたちがのびのびと過ごせる環境がひととおり揃った学校でもありました。
そんな学校で、いろいろな子どもと向き合い、いろいろな問題を抱えながらも、充実した毎日を過ごしていた7年目のある日のことです。
私は2年生を担任して、忙しく過ごしていました。
放課後、同僚と話をしているところへ、さきほどの保護者が怒鳴り込んできたのです。
見れば、1年前、5年生を受け持ったときの保護者でした。
「先生、あなたは何なんですか!?」
まさに、キョトンです。
いまはその子の担任でもなければ、部活でも特別活動でも一切関わりのない保護者から、いきなり「何なんですか」呼ばわりされたのですから。
教頭に促されて、しばらく校長室で話を聞くことになりました。
怒りの原因は、「去年、5年生のときに、友達にズボンを下ろされそうになる事件があったのに、それを知らされなかった」というものでした。
男子が男子のズボンを下ろしてふざけ合う光景は、小中学校ではそう珍しいものではなくて、自分にも似たような記憶があります。
もちろん、ふざけてズボンを下ろした子には厳しく指導をしましたし、そういう悪ふざけも1回きりだったので、正直なところすっかり忘れていました。
それを、いまになって、なぜ。
デマを吹き込んでいたのは、もうひとりの「モンスター」
保護者を突き動かしていたのには、別の人物の存在があったと、後になって知りました。
同じクラスだった子の母親です。
「先生は、ズボンを下ろされても見て見ぬふりをしていたらしいよ」
「女子が大勢いる中で、ズボンを下ろされたらしいよ」
「先生は、学年主任や管理職にも全然報告してないらしいよ」
「みんな、〇〇先生が担任になって不安だったって言ってたらしいよ」
自分の子(こちらも、かなりモンスターチャイルドでした)から聞いた話と、そこに乗せた本人の空想を織り交ぜて、いろいろなデマを吹き込んでいたようです。
その後、その話を聞いた父親が来襲しました。市役所に勤める公務員だったと記憶しています。
父親は再度の説明を求め、「録音させてもらいます」とレコーダーを机の上にドンと置きました。
そこからは、こちらがどんな説明をしても、「学校に都合の悪いことを隠した」の一点張りです。
父親は「教育委員会へ報告するからな!」という捨て台詞とともに、2時間ほどわめき散らして帰っていきました。
関連記事:モンスターペアレント2人が連携した小学校クラス|教員歴30年の親が初めて見せた疲れた顔
委員会の結論と、退職して分かったこと
教育委員会の結論としては、「友達のズボンを下ろすのはいじめである」というものでした。
委員会から保護者への謝罪もあったそうですが、学校には「気にしなくていいよ」という趣旨の返事だったと聞いています。
半年ほどの間、この一件に振り回されて、せっかく「いい学校」だと思っていた7年間に、泥を塗られたような気持ちになりました。
後から聞いた話ですが、もともとこのご夫婦は意思の疎通がうまくいっておらず、家庭でも言い争いが絶えなかったのだそうです。
そこにちょうどよく浮上した「夫婦共通の敵」が、私だったというわけです。
夫としても、妻にいいところを見せて、日常生活を挽回しようとしていたところがあったのだと思います。
いまでは、そのご夫婦は離婚され、子どもたちもそれぞれの生活を送るようになって、家族としての形は崩れてしまっているようです。
人の話ばかりを鵜呑みにして、自分の頭で筋道立てて考えることをしなかった人の、当然の行き着く先だったのかもしれません。
保護者対応に消耗している先生へ
理不尽なクレームの怖さは、事実そのものよりも、伝聞と空想が誰かの手で編集されて広まっていくところにあると、この一件を経て感じています。
解決したはずの小さな出来事が、半年がかりの攻防に膨らんでしまうこともある以上、抱え込む前に管理職や第三者と早めに共有できる記録を残しておくことは、無駄にはならないと思います。
困った時の選択肢
【学校や保護者と直接向き合うのがつらい方へ】
理不尽な保護者対応が続き、管理職とも話し合いたくない、直接顔を合わせて退職を切り出すのがつらいという方は、弁護士が窓口になっている退職代行という選択肢もあります。LINEやメールで相談でき、有給消化や未払い分の請求まで対応してもらえます。
→ 弁護士法人ガイア法律事務所(退職代行)
そのほか、状況に合わせて選べる相談先を挙げておきます。
・転職を決めているわけではないけれど、今の働き方についてまず話を聞いてもらいたい方は
→ キャリート(キャリア相談・自己分析サポート)
・保護者対応の緊張感を引きずって心身が休まらないと感じる方は、抱え込む前に、自分の気持ちを整理するセルフケアから
→ 心のAIパートナー【Awarefy】(自己理解・セルフケアアプリ)
公的な窓口としては、総合労働相談コーナー(厚生労働省)や、よりそいホットライン(0120-279-338)が無料で相談に乗ってくれます。
保護者対応で張り詰めた気持ちを、まず本の世界でゆるめてみるという方法もあります。
・読んでみる → Kindle Unlimited(30日間無料体験)
・聴いてみる → Audible(30日間無料体験)
校長室で何時間も張り詰めていた日の帰り道は、肩や目の奥がずっしり重かったのを覚えています。蒸気の温かさで目元をゆるめるホットアイマスクを、一日の終わりに使っている先生も多いようです。
