「んなもん、てめえで見つけろ!!!」
報道フロア全体に響き渡る大声で、ディレクターに怒鳴られた。派遣されてから3日目の出来事だった。
私は今、テレビのディレクターをしている。これはADだった頃、派遣業務として民放テレビ局の報道フロアに送られた時の話です。
📌 体験者プロフィール
・業界・職種:テレビ業界(民放)/アシスタントディレクター(AD)→現在はディレクター
・雇用形態:派遣社員(AD当時)
・派遣先:民放テレビ局・報道フロア
・退職状況:現職継続中(業界に残り、現在はディレクター)
・体験形態:実体験ベース
※プライバシー保護のため、個人が特定されない範囲で仮名化・一部詳細を変更しています。
出社1日目の衝撃|報道フロアにADのデスクが存在しなかった
民放各局すべてがそうとは限らないけれど、私が派遣された報道フロアには、ADのデスクというものが存在しなかった。
TV業界で数多くの番組を経験してきても、さすがにそんな事態に出くわしたのは初めてだった。デスクがないADって何なのだろう。立ったまま指示を待つのが基本姿勢ということなのか。
出社1日目。何をしていいのかもわからずに突っ立っていると、記者らしき人が私の存在に気づいた。
「おいAD!何ボーっと突っ立ってんだよ!!」
突然、怒鳴られた。これまで関わってきたバラエティや情報番組の現場とは、あまりに世界が違いすぎて愕然とした。
その後、ちゃんとチーフADに挨拶をし、段取りやワークフローを教えていただけたのだけれど、「やばいところに来てしまったな……デスクもないし」という第一印象は最後まで消えなかった。
「仕事は自分で見つけろ」|社会部の8●3風ディレクター
この業界、ADだとディレクターについて仕事をするので、ディレクターに「次何かやることありますか?」と聞くのは普通のことだ。
しかし、報道フロアでその概念は覆される。
派遣されてから3日目とかぐらいの出来事だっただろうか。担当のディレクターに「何か次やることはありますか?」と聞いた瞬間、報道フロア全体に響き渡る大声で怒鳴られた。
「んなもん、てめえで見つけろ!!!」
そのディレクターは社会部の記者で、風貌もオーラも、いわゆる8●3みたいな方だった。
最初は「何でそんなに怒鳴るのか」と理不尽さを感じていた。けれど、社会部は事件・事故・反社会的勢力を含む様々な人たちと日常的にやり取りする部署で、現場ではそういう空気のなかで仕事を回している。
今思えば、あれが普通の世界なのだと思う。バラエティの現場とは、流れている空気の濃さがまるで違っていた。
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報道フロア・デイリーニュース(夕方OA)の1日
報道フロア・デイリーニュース(夕方OA)の1日は、ざっとこんな流れで進む。
9:00 出社・全体会議
出社時間は絶対厳守。5分でも遅れようものなら、ADたちから白い目で見られるようになり、信頼を少しずつ失っていく。
9時きっかりに、構成作家、局員のチーフ、プロデューサー、アナウンサーも含めた報道フロアの全スタッフが一堂に会し、その日のニューストピックを話し合う「全体会議」が始まる。
「今日の朝までに○○大統領がこんなことをツイート」
「あの事件の公判が今日○○時から地裁である」
「今日の最高気温が何度になる予定だから気象ネタを入れよう」
「今日はほとんど台風関連のニュースでいく」
そんな具合に、その日の夕方ニュースのラインナップが10時までに決まっていく。
【情報が命】の報道では、たった5分聞いていないだけで、その日1日がどうなるかわからなくなる世界。1日の出発点として、ここで集中力を切らすわけにはいかない。
10:00 担当ネタ決定、ディレクターに挨拶
ネタが決まると、各ネタにディレクターが割り振られ、チーフADが各ネタにつくADを選んでシフト表が出る。担当ディレクターに挨拶し、情報リサーチや取材方針を一緒に詰めて、取材準備に入る。
11:00 片っ端から電話をかけまくる
「このあと13時とかから撮影させてもらえないか?」
今、冷静になればトンデモなテレフォンを、取材OKの店や担当者にかけまくる。
12:00 撮影部・車両部にロケ申請
「このあと12:30に局出ます」など、撮影申請書類を報道フロア内の車両部・撮影部に申請。ネタと撮影項目をカメラマンに伝える。
13:00 ロケに出る
ここまで読んで「いや頭おかしいでしょ昼飯は?」と思った方もいるはず。
ディレクターたちのなかには「お昼食べてきな!」「ちゃんと食べてる?」と気をつかってくれる人もいた。けれど、ぶっちゃけそんな時間はない。だって13時にはロケ現場に向かわなきゃいけないんだから。
頑張って処理速度を上げれば、12:00〜12:30くらいに社内のコンビニや売店で軽食を買って食べることはできる。けれど、それに慣れるまで、私は昼飯なんて食べている場合ではなかった。
ロケ現場のリアル|コーヒーショップ取材の例
報道では、1つのネタにつきディレクターが2人以上つく。ロケに出るディレクターと、局に残ってニュース原稿を書く書き手ディレクター。ADも1ネタにつき2人以上。
日によってシフトは違うけれど、私はロケについていく方が好きだった。
例として、ロケ先を「コーヒーショップ」、ネタを「全国で猛暑日続出!コーヒーの売れ行きに変化は?」とする。
13時に取材に行く頃には、書き手のディレクターが書いた台本がロケ先のディレクターに送られていて、ロケ先のディレクターはその流れをできるだけ守った内容で取材を進める。
客のインタビューも、
「アイスコーヒー、今日もう3杯目っすね」
「暑いけどアイスコーヒー飲んだらお腹こわすんで私はホットです」
みたいな仮の文言が台本に書かれていて、それに沿う内容のインタビューを引き出していく。
その日のホットコーヒーとアイスコーヒーの売れ行き、1か月前と比べて何杯増えた・減った、というデータ集めもしっかり報告する。
これはやらせではない。台本に沿う内容で「面白いもの」を引き出す質問やリアクションが、ディレクターの腕の見せ所なのだ。
14:30〜16:00 撮影映像を局に伝送
ロケ隊は撮影した素材を、局のシステムサーバーに伝送する。撮影時間が長いものは、
「●分○○秒くらいで長い茶髪女性が使えること言ってます」
など、詳細情報を書き手ディレクター・書き手ADにLINEで報告。編集時間をできるだけ削減していく。
13:00〜16:50 書き手と編集マンが編集
書き手ディレクターが書いた台本をもとに、編集マンが映像をはめていく。ロケ中の映像も撮ったそばから送られてくるので、局内ADが「サーバー上の○○番に客インタきました!」と編集マンやディレクターに逐一報告する。
局内も局内で怒涛の動き、ロケはロケで台本に沿う絵を撮るためにてんやわんや。報道フロアのどこを切り取っても、誰かが叫んでいた。
放送開始から終了までの戦場
16:50 放送開始〜19:00
ロケ部隊は取材終了後、局に戻って編集を手伝う。大体は書き手ディレクターが書いた台本の後半、CM明けからのVTRをつなぎ始める。
放送が始まると、ADもDも構成作家もプロデューサーも、報道フロア全体がもう戦場だった。
罵声は飛び交い、誰が誰に対して何を叫んでいるのかもよくわからない。その最中に地震でも起きようものなら、もう大変だ。予定されていたラインナップはすべて吹っ飛び、緊急体制に移行する。
19:00 放送終了
生放送が終われば、さっきまで鬼の形相だった人々も、普通の温厚な人々に戻る。
次の日のニュースで必要な情報をリサーチする人もいれば、何もなければそのまま帰る人もいる。20時から21時には、大体みんな帰宅していた。
「あの人、ついさっき罵声飛ばしてたよな……」と思いながら、私も帰り支度をする。報道フロアという場所の、独特な切り替えの早さを毎日見ていた。
「真実を報道する」とは?
報道フロアの1日をお伝えしてきたけれど、まだまだ伝えきれないことばかりがある。ドラマチックな人々が数多くいたし、ドラマチックな日々もたくさんあった。
ただ、ここで伝えたいのは、「真実を報道する」ということが、今の報道で本当にできているのかという疑問。これが実際に働いた自分の正直な感想だ。
書き手ディレクターが書いた内容に即して、ロケに行ったディレクターが急いでそれに即した内容を撮る。
もちろんやらせは問題になるので、嘘は書かない。書き手ディレクターも調べに調べた上で、真実の情報を書く。
しかし、そうして出来上がる情報は、【真実】を寄せ集めて「切り貼り」をした「新しい」真実だ。そこに作家のストーリーテリング能力も相まって、「新たな真実」として日々番組が構築されていく。
ある人はそれを「演出」と呼ぶ。ある人はそれを「やらせ」と言う。ある人はそれを「デタラメ」と言う。
メディアのフェイクニュースが取り上げられて叩かれているのが日々話題になっている。私個人の意見としては、日々の報道のニュースが「真実を報道する」システムにはなっていないと思う。
報道する側に、事実を咀嚼・分析する時間がないからだ。
突き詰めていくと、報道の人は「真実を報道する」ことはできないのだろうか?
時間の効率化を求めすぎたメディアは、そのことに気づくことができるのだろうか?
同じ業界に生きる者として、疑問を感じた瞬間だった。
その後、私はディレクターになり、別の現場で番組づくりを続けている。あの報道フロアの空気を時々思い出しながら、自分が関わる映像が、誰かにとってのどんな「真実」になっているのかを考える日が、今もある。
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編集部より
この体験談の白眉は、罵声やデスクのない現場の過酷さよりも、書き手が業界の内側から投げかける「切り貼りされた新しい真実」という問いです。嘘は書かない、やらせもしない——それでも、限られた時間で事実を選び、台本に沿う絵を撮り、わかりやすく束ねた瞬間に、出来上がるのは”編集された真実”になる。やらせと演出の境界が曖昧になるのは個人の悪意ではなく、秒単位で回る制作スケジュールが、事実を咀嚼する時間を構造的に奪っているからだと、この記事は現場の手触りで示しています。
その違和感を抱えたまま業界に残るのも、別の場所に活路を見いだすのも、どちらも逃げではありません。むしろ、その問いを持てたこと自体が、この仕事と長く向き合っていける人の条件なのかもしれません。
困った時の選択肢
【業界に残るか、別の道に進むか、迷っている方へ】
テレビや報道の現場は、外から見るより消耗が早く、「この違和感を抱えたまま続けていいのか」を一人で抱え込みやすい世界です。転職を前提にせず、今の仕事を続ける選択も含めて、自分が何を大事にしたいのかを言葉にして整理したい20〜30代の方には、キャリアコーチングという選択肢があります。
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